自宅ごはんを中心に、まあまあ幅広いトピックを扱うくりたです。

梅雨の時期のひそかな楽しみ

梅雨に入りそうで入らない日々が続いていますね。

梅雨の時期は全体的に空気がどんよりとして重たく、何となく憂鬱になる方も多い季節ではないかと思いますが、皆さんはいかがですか?

人間は陽の光を浴びないと弱る生き物らしいので仕方ないですが、身体が弱って心も弱るとさらに悪循環に陥ってしまうので、何かこの時期ならではの楽しみを見つけると良いような気がします。

私の密かな楽しみは桜です。

桜といえば3月末から4月にかけての花が咲くシーズンがハイライトではありますが、私には特別な桜の木があります。

それは京都に住む人なら誰でも知っている鴨川沿いの川端通、荒神橋から少しだけ上がったところにある一本の桜の木です。

ふんわりとあたりに桜餅の香りが立ち込める

いつも自転車で駆け抜けるので正確に荒神橋から何本目の桜だとは特定していないのですが、その桜の木は桜餅の香りがするのです。

桜餅の香りといえば桜の葉。でも普通に生えている木の葉を嗅いでもほとんど香りはありません。

あの独特の酸味があって甘くてほんのり苦味もある爽やかな何ともいえない華やかな香りはクマリンという芳香成分。

ただ、生の葉の状態ではクマリンは生成されず、塩漬けにしたり傷つけたりすることで葉の中で化学反応が起こって芳香を放つクマリンになるのだそうです。

難しいことはよくわかりませんが、基本的には普通に木として存在している場合、クマリンにはならないので桜葉の塩漬けの香りはしないということ。

その香りに最初に気づいたのはいつだったか。おそらく10年以上前のことだと思います。

通勤で毎日のようにその場所を通っていて、ある日急にそのあたりだけに桜餅の香りがしたのです。季節的にも桜餅の時期は過ぎていたし、今まで桜の木のそばでそんな特徴的な香りを嗅いだことはなかったので、とても不思議な気持ちになりました。

帰りに同じ場所を通っても、もうその香りはしませんでした。

それ以来何となく気になって、その前を通る時は香りに注意をするようにしていると、やはり時折また香るのです。

確率としては一年に一度か二度くらい。香りが強い時もあればほんのりとしている時もあり、捉えどころがありません。

友人知人様々な人にその話をして、桜餅の香りのする桜に出会ったことがあるか聞いてみましたが、今の所誰からも体験談は寄せられていません。

なので、恐らくそれは確かに香るのだけれどとても珍しい現象なのだと思います。

ネットで調べてみたところ、いわゆる学術系の説明をするようなページは見つかりませんでしたが、わずかに2件ほど私と同じように桜の木から香りがしたと書かれたブログ記事を見つけました。

それは稀なる香木のごとく?

なぜかとぼんやり長いこと考えているのですが、仮説としては香木のようなものなのかもしれません。

香木はご存知の方も多いと思いますが、香道などで主に用いられる木の幹が香る木です。有名なものでは白檀や伽羅、沈香などがあります。特定の木ではありますが、全ての木が香るのではなく、その中でも偶然に傷ついたりして病気になった木が長い時間をかけて独特の化学反応によって香木になるということです。最近では研究が進んで人工的に傷をつけて特定の成分を付着させ、数年で香木にするという所謂促成栽培もできるようですが、香道の専門家によると自然のものと人工的なものでは全く違い、人工的なものはやはり質としてかなり落ちるということでした。

少し話がそれましたが、桜餅の香りのする桜の木はもしかしたら香木と同じように何か一種の病気の木なのかもしれません。けれども明らかにおかしいわけでないのでそれほど強い香りになることもなく、湿度や気温などさまざまな条件が整った時だけ人間の鼻にも感じ取れるような香りを放つことがある、ということなのかも。

ごく稀に香っているのは乾燥した時期ではなく、雨上がりだったり梅雨だったりすることが多いので、やはり湿度の高い時期の方が確率が高そうです。

常に香るわけではなく、週5回通っていても一年に一度か二度だけ香るというのでは、友人に教えても、彼らがその木の前に立った時に香る確率はとても低いでしょう。なので、今の所この香る桜の木は残念ながら私ひとりだけの楽しみです。

梅雨の時期は香るかもしれないという期待が膨らむので、そのことを楽しみに雨の日も晴れの日も川端通を自転車で通っています。

もしかしたら桜守として知られる佐野藤右衛門さんなら、こういう桜の木もご存知かもしれない。万が一お会いできるような機会があれば、お尋ねしてみたいなあと思っています。