2014年の台湾で起きた社会運動であるひまわり運動の中心メンバー二人と監督自身にフォーカスしたドキュメンタリーで、台湾社会運動を中心に取り上げつつも、タイトル通り彼らが青春の中で移り変わりゆく様子が描かれています。

ひまわり運動は、当時の台湾の中国大陸との協調路線を進めていた馬英九政権の主導により、中国大陸と台湾の間での自由貿易を目的とした「海峡両岸サービス貿易協定」が、台湾の国会である立法院でスピード採決されたことに対して、台湾の民主が失われるきっかけになると危機感を持った大学生たちが、これに反対しデモを行って立法院を占拠したことに端を発する一連の社会運動です。


通常社会運動を取り上げたドキュメンタリーだと、運動そのものに主眼がおかれますが、この映画はそれだけではなく、運動のリーダー格であった陳為廷と、中国からの留学生として台湾の民主についての情報を発信し、大陸でも人気ブロガーとして知られつつ同じく運動に身を投じている蔡博芸という2名と監督との関係にフォーカスが当てられている珍しい構成です。

多くの人々からスターとして注目される二人の姿と、それを記録することで自分自身を発見しようとする監督。運動が終了した後の姿をも追い続けることで、人生の限られた期間ではあるものの彼らの生き様や思考の変遷が浮き彫りにされ、彼らが画面の向こうのスーパーヒーローでなく、悩んだり迷ったり失敗もする私たちと変わらない存在だという近しさを感じさせます。

中国大陸と台湾との間にある社会の差と、台湾における大陸人への意識。社会運動の中でスターとなる一方で、個人の問題を抱える姿。しかし彼らの人生はまだまだこれからも続いていくことの切実さ。

何かに向かって懸命になる若者の姿は生命力に溢れ、若者特有の困難があっても何でもできるような自信と希望できらきらと眩しい。そうした季節を青春という言葉ひとつで完結させてしまうには、実際の人生はあまりにもたくさんの出来事がありすぎる。

日本にいる私たちには社会運動としての盛り上がりは1970年代初頭まで続いた安保闘争以来ありませんが、そうした運動でなくとも若い頃何かに熱くなった経験がある人は、この映画はただの通り過ぎてしまった美しい時間としてだけではない想いを呼び覚ますのではないでしょうか。


作品中では香港の雨傘運動の中心メンバーで、現在香港警察に拘留されてるジョシュア・ウォン(黄之鋒)やアグネス・チョウ(周庭)の他、同じく主宰者が拘留されているりんご日報の記者の姿も見られます。
現在の「香港国家安全維持法」で揺れる香港の最もデモが激しかった2019年年末の状況を捉えたドキュメンタリー「香港画」と併せて観ると、香港・台湾の状況の違いというのが感じられるのも興味深い一本です。

作品データ:
「台湾、私たちの青春」Our Youth in Taiwan
2017年/台湾/113分
監督:傅楡
出演:陳為廷、蔡博芸
配給:太秦