ハッピーではないが、バッドではない

 この作品を楽しめるかどうかは賛否両論な気がするけれど、私にはとても面白く、希望を感じた。
 ストーリーとしては最近再婚して新しい生活を始めた主人公・妙子の連れ子が事故死、その葬儀の日に子供の実の父親である前夫が現れる。彼は韓国籍で聴覚障害があり、数年前にある日理由も告げず失踪し、現在はホームレスとして生活している。ソーシャルワーカーとして路上生活者の支援を行なっている妙子は前夫のサポートにのめり込んでいく・・・と難しい状況がどんどん重なり、どこがLOVE LIFEやねんという進行なのだけれど、これが最後まで観ると確かにLOVE LIFEだなあと感じる不思議な後味の作品。

稀有な軽やかさが鮮やか

 本作の特徴として一番に挙げておきたいのは、時間が進むに従って空気が軽やかになっていくこと。
 通常映画に限らず最初軽いタッチで始まったのに、最後はかなりの深刻さや重苦しさで締め括られるというパターンは多い。この作品のように問題が次々に起こっていくのに軽やかさを失わない、というよりはむしろ最初よりも最後の方が軽快というのはとても珍しい。話が大団円に向かっていくわけでもないのに、主人公の心の重荷が明らかにある程度解消されていることが伝わってくる。役者陣の演技とちょっとした曲芸のような脚本との共同作業が絶妙にマッチングした結果だと思う。
 最後のあたりの出来事はちょっと騙し討ちのような展開ではあるけれど、かろうじてそんなことが起こる可能性も否定はできないという程度に留まっている。

韓国歌謡による禊、そしてLOVE LIFEへ

 ラスト近く、急に降り出した雨の中で音楽に合わせて身体を揺らす主人公・妙子の姿を観て思い出したのは韓国映画『母なる愛情』のラストシーン。そこではキム・ヘジャ演じる母が自分と息子の罪をすべて忘れたいという思いで近所の慰安旅行のバスの中で、歌謡曲にのって踊るのだけれど、『LOVE LIFE』においても奇しくも韓国の歌謡曲に合わせて踊る妙子は、今までの自分だけが抱えていると感じていた辛さや重み、そして思い込みを洗い流しているように見える。ありふれていて大衆的で泥臭い韓国歌謡に身を委ねることは、頑なで孤独な魂を癒して解放していく禊にも似た行為なのかもしれない。
 妙子と現在の夫・次郎がこれからどのような関係になっていくのか作品では描かれてはいない。
 けれども自分に降りかかってくるさまざまな災厄について、全部ひとりで抱え込まなくていい、深刻になりすぎる必要はなく、誰かを信頼するという気持ちを持って歩いていけばいいんだということを割と控え目に、しかし強く伝えたい気持ちが伝わってくる。

ソングライターとしての矢野顕子の凄味

 余談だがこの作品、矢野顕子の『LOVE LIFE』にインスパイアされたとのことでエンディングに曲が流れるのだけれど、改めて80年代から90年代前半にかけてのソングライターとしての矢野顕子の神憑り的才能には感服するしかない。

監督:深田晃司
出演:木村文乃、砂田アトム、永山絢斗
2021年 日本 123分 PG12