自宅ごはんを中心に、まあまあ幅広いトピックを扱うくりたです。

今年はいつまでも寒いと思っていたら急に初夏の陽気ががやってきて、本当にこの頃の季節はせっかちというか無粋だなあと思ってしまいます。まるで、朝に目覚ましがなっても一向に起きず、起きた途端朝ごはんを食べる時間もなく身支度もそこそこに出ていく人のようです。

こんな気候の中に身を置いていると、つい即物的になってしまうのも致し方ないのかもしれませんね。

こんな風にうだうだわかったようなわからないようなことを考えてしまう私は、ちょっと時代遅れなのかもしれません。でもその時代遅れと現代隙間に、素敵なことが隠れている場合もあるのじゃないかなと思うことがあります。

防虫香、それは古の日本人の知恵

この時期は多くの人が冬服から、春服へと衣替えをされますよね。

皆さんの中には衣替えの時、大事な服が虫食いに合わないように防虫剤を入れて収納される方もきっと沢山いらっしゃることでしょう。

私が子供の頃は、防虫剤というとナフタリンというツンとしたいかにも科学的な刺激臭のする、白いタブレット型の薬剤が主流でした。衣装ケースにナフタリンを入れておくと確かに虫食いには合わないものの、その鼻にくる刺激臭が服に移ってしまって、衣替えして数日はその臭いと付き合わなければいけなくて、いかにも衣替えしました!という証明のようで、気恥ずかしさを感じたものでした。

今は無臭の防虫剤が増えて、そうした恥ずかしさからは解放されましたが、一方ではなんとなくナフタリン文化が消えてしまうことについて、ちょっぴり感傷的な気分もしたりして、人間って本当に勝手だなと自分で可笑しくなってしまいます。

そんな私が愛用しているのは、無臭の現代っぽい防虫剤ではなく、明らかに昔っぽい「防虫香」です。

「防虫香」って知っていますか?衣類に虫がつくのを防ぐと言われている竜脳、白檀、桂皮、丁子といったスパイス類を調合した昔から使われている防虫剤です。どこで手に入るかというと、ドラッグストアではもちろんなくて、いわゆる「お香やさん」にあります。

昔はお香=お線香のイメージでしたが、各メーカーさんが工夫を凝らした現代的な香りを編み出しているので、最近は和製アロマの感覚で楽しんでいる方も増えましたね。

しかし防虫香は雅な香りのものが多くて、実用的なのに効能を考えなくても楽しめるので、昔の人の知恵は素晴らしいなと感心します。

衣服に香を纏ったら、気分は平安貴族

私自身はそんなに家でお香を焚いたりはしませんが、防虫香はいつ頃から使い出したのか、おそらく15年以上前から全国でも押しも押されもせぬ超有名香舗である松栄堂さんの「みやこ」というのを愛用しています。

中身はこんな感じ。かなり細かい粉状のものが入っています。灰に香料を混ぜているのかな?

「みやこ」は小さい分包のものもありますが割高なので、大きい袋の方を自分で中身を6つほどに小分けしています。ビニール袋だけでも良いかもしれませんが、何となく粉がつきそうなので、みやこ本体と同じようにビニールを懐紙や和紙で包んで、取り替えの目安がわかるように使用開始した月を書き入れて使います。大体香りは半年くらいを目安に取り替えると酔いそうなので、ちょうど衣替えに良いタイミングです。

私は香水はつけないのですが、時々人に「くりたさんが通ると何だかお香っぽい香りがする。」と言われることがあり、それはこの防虫香のせい。衣類ケースや衣装カバーのポケットに小分けした「みやこ」を入れておくと、服に香りが移るのです。

服が香るなんて、まるで香を薫きしめていたという平安時代の貴族のようではありませんか!

実際には私と平安貴族の間には1ミクロンほどの関連もありませんが、防虫香を通じて時空を超えて繋がっているような気にさせてくれて、ふとした瞬間にとても贅沢な気分になります。

防虫香は京都ですと松栄堂さんのほか、薫玉堂さんや山田松香木店さん、林龍昇堂さん、石黒香舗さんなど各お香やさんがそれぞれ1〜3種類ほど出されています。香りのベースは先に書いた4種ほどの香料を基本に、各お店それぞれ独自の調合をされているので、色々試してお好みのものを見つけられると楽しいと思います。

本来は着物の保管のためのものと思われますが、もちろん洋服にも効果はあるので、もしもお香の香りがお好きな方なら、一度無臭の防虫剤ではなく、こんな古の防虫香を試されてはいかがでしょうか。

ただの実用的な目的の筈の虫食い除けが、時空を超えるドラマティカルなストーリーを感じさせる行為に変わるかもしれませんよ。