移る季節を感じる献立
自宅ごはんを中心に、まあまあ幅広いトピックを扱うくりたです。

つい一週間前まではまだ夏の名残を感じていたのに、一気に風が冷たくなり、駆け足で秋がすぎていこうとするようです。人間の世界のでの時間はとても目まぐるしいですが、自然もそれに呼応しているかのように移り変わりが早まっているのでしょうか。
今日は夏と秋の食材の共演です。
ゴーヤは夏の味覚、いくらとずいきは秋の味覚。
食卓の上でも季節が交代しようとする気配が感じられますね。
しっかりと太めに噛みしめるゴーヤのうまみ

ゴーヤは太めにスライスしたものを、さっと炒めて少し出汁を足し、お醤油と砂糖で炒り付けてきんぴらにしました。
ゴーヤは苦味がかなりきつい沖縄を代表する独特の食材ですが、この10年ほどですっかり家庭に根付いた野菜になりましたね。瓜にも似たしゃくしゃくとした歯ごたえがおいしく、色もきゅうりと共通するみずみずしい緑がうつくしいですね。
ゴーヤは苦味を楽しむ野菜ではありますが、苦味を抑えめにしたい場合は油を多めに使ってよく炒めるとかなりマイルドになります。私は結構苦いのも好きなので芯が残る程度に軽めに仕上げるのが好みです。
太めにスライスすることで芯が残しやすくなりますし、ゴーヤ独特の食感を炒め物でも楽しめます。口に入れた時も表面のきんぴらの甘辛い味が先にきて、その後にゴーヤの素材そのものの味が広がるという二段階の味わいになるのも、複層的な感じで良いかなと。
同じ料理でもカットの仕方で食感や味わいが結構変化するので、このゴーヤのきんぴらに限らず、色々な料理で試してみると楽しいです。
いのち丸ごといただくありがたさ

こちらはいくらの醤油漬け。物産展などでは年中売ってはいますが、新物は9月に入ってから10月までくらいがシーズンです。産卵のために川に戻ってこようとする鮭がたっぷりと卵を詰め込んでいます。札幌の叔母によると、出始めの頃のいくらは皮が薄くて溶けやすいのだそうです。シーズンが終わりになると皮がしっかりと厚みを増して硬くなり、冷凍などにも対応できるようになるのだとか。
これは酢飯ではなく新米の白飯に海苔を敷き詰めて、いくらの醤油漬けをたっぷりと載せました。粒が大きくて立派ないくらです。プチプチした食感を楽しんだ後にくるとろりと濃厚な味がたまりません。ご飯のおともは数々あれど、このいくらの醤油漬けはかなり最強な部類に入るのではないかと個人的には思います。
魚卵って本当に人々から愛されていますよね。いくらはもちろん、たらこ、数の子、鯛の子(助子)などなど。鶏の卵も愛されているし、卵というのはこれから誕生しようとする生命の丸ごとなわけですから、いのちはおいしい、ということなのかもしれません。恵みにたくさん感謝しないといけないですよね。
庶民的だけれど、この上なく品位を感じていとしい

赤ずいきの煮物です。ずいきはお正月のおせちで重用される八頭の芋の茎ですが、なんとなく全国的に食べられているものではないように思います。京都っぽいというか。この季節は京都のおばんざい屋さんでは大抵のところで売られているのではないかと思います。
私はずいきの煮物が大好きで、時々自分で作ります。通常ずいきを調理するときは皮を向かないといけないのですが、今回のものは行きつけの八百屋のお兄さんが、これは皮を剥かなくても大丈夫と言われたので、皮は剥かずにそのままアクを抜くため、洗って食べる大きさにカットしたら、片端から酢水の中に入れていきます。そのまま炊くと味が染み込みにくいので、さっと湯通ししてから煮汁に入れていきます。ずいきの煮物の醍醐味は食感と出汁。素材そのものにはそれほど強い味がないのですが、たっぷりと水分を溜め込む野菜なので、とにかく出汁をたっぷり楽しみたい料理が適しています。出汁そのものの味を満喫したいので、味付けは控えめにお塩とほんの少しのお醤油とお酒で仕上げます。
ずいきを食べたことのない方はどんな味がするのか想像がつかないと思いますが、これはなんと表現したら良いのでしょう。細い繊維状の束のような野菜で、「サクサク」という表現がこれほどぴったりな食材もないのではないかと思います。本当にそういう音がするんです!
先のゴーヤも歯ごたえは良いですが、どこかカリッという食感もありますが、ずいきは繊細なサクサク感。それがスポンジのように出汁をたっぷり含んでいて、噛むとジュワッとあっさりしたうまみが口いっぱいに広がります。
出汁を思う存分吸わせて食べたいので、片栗粉でとろみをつけて、これでもかというくらいにひたひたな感じでいただきます。生姜との相性も良いので、出汁の出来上がり直前に絞り汁を加えて、すっきりとうまみのほとばしる、たまらないおいしさに心がとろけそうになります。
ああ、本当においしいです。派手なところが何にもない、いわゆるおばんざいというにふさわしい地味な料理なのですが、少しけぶったピンク色も控えめながらに美しいし、庶民的な食べ物なのですが、はんなりとした雰囲気が野に咲く小さな花のような清廉な気持ちにさせてくれる食べ物です。
漬物の第二の人生
最後はお吸物です。

きゅうりの糠漬と瓜の浅漬けがちょっと古くなってしまい、そのまま食べるのは発酵が進んでしまって酸っぱいので、思い切ってお吸物の実にしてみました。
豚キムチもそうなんですが、古い漬物ってそれはそれで新しい時とは違う活用方法があるんですよね。腐ってさえいなければ、チャーハンに入れても酸味がアクセントになっておいしいし、このお吸物も普通のものとは少し違う乳酸菌の発酵した独特の深い酸味が加えられて、さっぱりといただけます。今回は漬物の他になめこと三つ葉も加えて、具沢山なお吸物です。
中華でもザーサイを使ったスープというのが時々メニューにあるお店がありますが、ザーサイも漬物。糠漬けやそのほかの日本の漬物も、古くなる=悪くなるではなく、酸っぱくなるのは乳酸菌がどんどん食材を発酵させているためだから、発酵が進んでいる分うまみも増しているとポジティブに捉えています。
もちろんお店で買ったら賞味期限が設定されてはいますが、浅漬けを浅漬けのまま楽しむには短期間で食べることが大切ですが、発酵が進むとまた浅漬けの時とは違ううまみが深まっていくので、いわば漬物の第二の人生を楽しんでいると考えることもできるのではないでしょうか。
でもカビが生えていたりしてはやはり駄目なので、その辺りは己の生き物としての本能を研ぎ澄ませて、身体に害があるかどうかは自分で見極めないといけないです(笑)。